お芝居やイベントを開こうとして、劇場やホールとやり取りをしていると
「なぜ、ここではそれができないのだろう」
「なぜダメなのか」
と感じる場面がある。
利用者の立場から見れば、正直に言って
「会場費が高いのに」
「面倒だな」
と思うことも少なくない。私自身も、そう感じたことはある。
ただ、こうしたルールには、だいたい二つの流れがある。
・ 法律や公的な指針にもとづくもの
・ その劇場が独自に決めているもの
同じ「ルール」でも、この二つは性質がかなり違う。
目次
まず知っておきたい、二つのルール
劇場のルールは、全部が同じ種類ではない。
この違いが見えてくると、「なぜ止められたのか」が少しだけ分かりやすくなる。
1. 法律や公的な指針にもとづくもの
こちらは、劇場ごとの好みで決まっているわけではない。
法律やガイドラインが関わるため、同じくらいの規模の劇場なら、どこでも似た扱いになりやすい。
つまり、劇場によって厳しさに差があるというより、そもそも最初から動かしにくい決まりだ。
火気の使用
舞台で本物の火を使う。煙を出す。
そうした演出は、勝手にはできない。
必要に応じて、消防への届け出が要る。
いわゆる「禁止行為解除申請」が必要になる場面もある。
これは、劇場の担当者が意地悪で止めているのではなく、事故が起きたときの被害が大きいため、外部への手続きまで含めて扱われているからだ。
高い場所での作業
仕込みやバラシでは、高い場所での作業が発生することがある。
そのときのヘルメットや安全帯、フルハーネスの着用は、気分で決まるものではない。
「今日は慣れた人しかいないから省略」という話にはならない。
ここは労働安全衛生法などが関わるため、かなりはっきりしている。
こうしたものは、利用者からすると窮屈でも、劇場ごとの差が出にくい。
全国どこでも同じように止められる。
※ 高さなどの条件が、規定より厳しい会場はある。
2. 劇場ごとに違うルール
利用者がいちばん戸惑いやすいのは、こちらだと思う。
施設ごとに違いが大きく、理由が見えにくいことも多い。
同じことをしても、Aホールでは大丈夫、Bホールでは不可、ということが起きる。
しかも、その差が利用規約だけでは読み切れないこともある。
こういう独自ルールは、たいてい、過去のトラブル、建物の弱さ、近隣との関係、運営のやり方、そういった現場の事情が積み重なって生まれる。
そして、理由を聞けば納得しやすいものと、それでも腑に落ちにくいものがある。
納得しやすいルールもある
独自ルールのすべてが理不尽というわけではない。
理由を聞けば、たしかにそうだと思えるものも多い。
大きな音や振動の制限
「このくらい大丈夫では」と思っても、過去に近隣から苦情が入っていたり、建物のつくりの都合で振動が別の部屋に伝わりやすかったりすることがある。
劇場は、舞台だけで独立して存在しているとは限らない。
多くの公共ホールは、同じ建物の中に会議室や事務室が入っていることもあるし、上や下に別の用途の部屋があることもある。
そうなると、舞台の都合だけでは決められない。
入館時間の制限
朝は何時から、夜は何時まで。
これも単なる厳しさではなく、管理スタッフの勤務や、ビル全体の警備体制と結びついていることがある。
利用者からすると「少し早く入るだけ」「少し遅く出るだけ」と思えても、施設全体ではそう簡単ではない。
匂いの出るものの制限
塗料、接着剤、薬品のようなものは、作業中だけでなく、終わったあとにも匂いが残ることがある。
その匂いが客席やロビーに回る。
食堂や共用部に残る。
次に入る利用者の迷惑になる。
そういう理由で止められることがある。
これは、舞台の中だけで話が終わらないからだ。
でも、腑に落ちにくいルールもある
一方で、「何がそこまで問題なのだろう」と感じやすいルールもある。
利用者が「面倒だな」と思うのは、むしろこちらかもしれない。
テープ、接着剤、釘、ビス
舞台床は釘打ちができるのに、ガムテープはだめ。
壁への掲示は、画鋲もテープもだめ。
そう言われると、利用者は首をかしげやすい。
もちろん、材料によっては跡が残る。
塗装がはがれる。
表面を傷める。
そういう現実的な理由がある場合もある。
ただ、その線引きが外から見えにくいと、「どこまでが本当に困ることで、どこからが運営側の好みなのか」が分からなくなる。
物を置く場所への細かな指導
消防設備の前や避難経路をふさがない、という話なら分かりやすい。
けれど、そうではない場所でも
「ここには置かないでください」
と厳しく言われることがある。
それが何を守るためのものなのか見えにくいと、利用者には理不尽に感じられる。
こうしたルールの中には、明確な危険を避けるためというより、施設を傷めずに維持したいという思いや、これまでのやり方を崩したくないという現場の感覚から生まれていることもある。
そのため、利用者には少し理不尽に映ることがある。
「書いていないなら大丈夫」ではない
ここも、現場ではよく食い違うところだ。
利用規約や契約書に書いていない。
だから問題ないはずだ。
そう考えたくなる気持ちはよく分かる。
でも、実際にはそれだけでは決まらないことがある。
新しい機材や演出
規約が作られた時代には想定されていなかった機材もある。
- ドローン
- 高出力のレーザー
- 特殊な液体を使う演出
そうしたものは、書かれていないからこそ、その場で判断せざるを得ない。
その日の状況で変わることもある
同じ行為でも、いつでも同じ答えになるとは限らない。
天候、時間帯、建物の使用状況、ほかの催しとの兼ね合い。
そうしたもので、その日だけ扱いが変わることもある。
「昨日はよかったのに、今日はだめ」
という話が起こることもある。
法律や指針と、現場の判断は同じではない
一方で、法律や指針そのものが変わることもある。
また、それとは別に、現場での判断や運用が変わることもある。
この二つは同じではない。
ただ、利用者の側から見ると、どちらも「前と違う」と感じやすい。
面倒なルールの奥にあるもの
劇場のルールは、きれいに一本では割り切れない。
- 全国どこでも共通に近いもの
- その建物でしか通じないもの
- 説明されれば納得できるもの
- 最後まで引っかかるもの
そうしたものが、ひとつの現場の中に混ざっている。
厄介なのは、利用者も劇場側も、どちらも自分なりの判断基準を持っていることだ。
公演を行う主催者やクリエイターには、やりたい表現がある。
なるべく効果的な表現を観客に届けたい。
一方で施設には、事故を起こさず、建物を守り、次の利用者まで回していく役目がある。
その間に立つのが、現場の人間だ。
同じルールでも、別の提案をしたり、伝え方が柔らかいだけでも、相手の受け取り方はかなり変わる。
- 「こんな演出だから、この条件でどうでしょう?」
- 「AとBの方法しか思いつかないけれど、どちらが良いですか? それともCという方法はありますか?」
こんな提案は、利用者側だけでなく、施設側からあっても良いのだと思う。
- 「ここまではNGだけれど、こんなやり方ならOKですよ」
- 「以前、こんなやり方でその演出をした方がいましたよ」
逆に、説明がないまま強く止められると、小さな確認が大きな揉め事に育ってしまうこともある。
結局のところ、これらは劇場側と利用者側の歩み寄りで解決するしかない。
劇場は、設備だけで動いている場所ではなく、人間の判断で動いている。
だからこそ、ルールにも人の気配が出る。
面倒に見える決まりごとの奥には
法の線引き
建物の都合
過去の失敗
守る側の神経
使う側の不満
そういうものが全部まざっている。少しやっかいだ。
でも、その「やっかい」ごと含めて、劇場という人間臭い場所なのだと思う。
