演出助手論

●舞台スタッフの中でも、一般書籍などでは仕事内容のマニュアルが存在しない「演出助手」について、商業演劇の第一線で活躍中の落石さんに寄稿頂きました。演出家や舞台監督なども経験されているプロフェッショナルの目線で、演出助手とは?

演出助手って…
「演出助手」読んで字の通り「演出」の「助手」をします。
あ、待って、待って!これで終わりじゃないから、もうちょっと聞いてくれる?
この「演出」ってところがミソなのよ。ん? どういうこと?
……あれ? 興味持った?

序】そもそも「演出」ってなんじゃらほい?

演出とは
演劇・テレビなどで、脚本またはシナリオを基として、その芸術的意図を達成するように、俳優の演技・舞台装置・照明・音楽・音響効果。衣装などを統括・指導すること

演出家とは
脚本またはシナリオを演出する人

広辞苑

とあります。
全部やん……何から何までやらなあかんやん……
それぞれの俳優が自分の好きなように勝手にセリフを喋り、行動したら大変な事になりますよね?それぞれのスタッフが自分の主義主張で仕事を進めてたらどうなると思いますか?

そう、だから演出家の仕事というは全部を統括し導いて行かなければならない仕事だということは容易に想像できますよね?って事は、その助手たる演出助手も同じことが言えるんですよ。いや、むしろ演出助手こそ全てを把握し演出家をも導いて行かなければならない仕事なんです。その内容は多岐に渡り・・・
「え! こんなことも?」 ってことまで考え実行しているんです。

では、具体的に何をしているのかを私の体験を基にお話ししていきましょう…
最初に断っておきますが、これからお話しするのは私の経験に基づく演出助手論です。
世に様々な人がいる様に、当然ながら演劇界にも様々な方がいらっしゃいます。
ここで私は「お前ら間違ってる! これが真実の演出助手だ!!」なんていうつもりは毛頭なく、私の考えが演出助手の仕事を理解する一助になれば幸いです。
ちょっと能書きが多くなりましたね、それでは始まりはじまり……

1】 やることが決まってから初めにやっている事

私が主に働いている「商業演劇」の世界は公演が始まる大体2年ほど前に企画が具体化していきます。この段階で「何がどこまで決まっているか」によって演出助手の仕事も変わってきます。

え!そんな早い段階から仕事があるの? はい、ある場合もありますよ。
私が携わったある作品は、作品と劇場と主演俳優しか決まってないのに依頼が来た事がありました。
お気づきですか? この段階で演出家が決まってないのに、演出助手が決まったんですよ。
マジかよ! マジだぜ!!
まぁこれは、あまりにも特殊な例なので、ここではこれ以上掘り下げませんが、こんなケースもあるとだけお話ししておきましょう。
一般的には、演出家が決まってから演出助手が決まるのがほとんどなので、そこからが演出助手の仕事のスタートとなります。
「ほとんど」と言ったのは、プロデューサーから直接依頼が来るパターンもあるんです。
いずれのパターンでも、この段階で私がやっていることは以下の通りです。

  • いつどこでなんの作品をやるの?
  • 誰が出演していてスタッフは誰なの?

この演出家って…なんの作品をやるかは重要ですよね。そもそも、その作品を自分が知っているのか?これって、新作なのか再演なのか?まずは、可能な限りに下調べをします。
次に、キャストは誰が決まっていて、誰が決まっていないか、スタッフも誰が決まっていて、誰が決まっていないかをプロデューサーに尋ねます。
これにより作品の骨格が見えてきます。

この世界、長くやってるとこの段階で受けた印象が外れる事がまず無くなります。チラシを見れば大体分かっちゃうですよね……あ、また話がそれましたね。
そうそう、そういえば説明してませんでしたけど、私が所属しているのは制作会社なのでプロデューサーが誰かも重要な要素になります。
初めましてなのか、お馴染みなのかによって仕事の進め方は当然変わってきます。
ここで何を考えているかというと、作品を創るのは結局は人間なのでどのような人間関係になるかを知る事によって、作品の方向性を予想しているのです。
極論ですが、演出助手の仕事の最も大切なのは、人と人とを繋げる仕事なんです。
あ、【1】で答え出ちゃった…
その人の思考を読むためには嗜好と経歴を可能な限り知っておくことがこの段階での仕事です。

2】 稽古を始める その前に・・・

さて、経験上一番早く招集されるのは「オーディション」ではないでしょうか?
先程のキャストの「誰が決まってない」を埋める行程ですね。オーディションに臨むにあたって、まずは台本を読みます。それから香盤表を作ります。
香盤表とは、登場人物と登場場面を把握するための表です。形式は人それぞれでしょうが、これを元に決まっていない役と、そこに使って良い俳優の数を把握します。役の数が俳優の数より多い場合は、複数の役を演じられる俳優を選ばないといけないからです。これを把握していないと、後に配役を決める時に地獄を見ます。
そんなバカな! と思うでしょうが、世の中には本当に色々な演出家、プロデューサーがいるんですよ…
ミュージカルの場合は、スコアも確認しておく必要があります。歌う際のパート割も考慮しなければいけません。採用した俳優が、歌えないパートがあったらどうします? …想像もしたくありませんね。
そんなバカな! …以下略。

同様にダンススキルやアクションスキルなんかも作品によっては、考えなくてはいけません。もっともそういう要素がある時は、それを担うスタッフがオーディションに同席してくれますけどね。でも、どういった俳優を求めているかを台本から読み取っておく必要があります。
もちろん最終的には、決定権を持つ人が決める事ですが、これらの要素を頭に入れてオーディションを迎えるのが大切だと思います。

余談ですが、以上の要素がありますので、もし 俳優の方でこの文章を読んでいる方がいたらオーディションで私達は、あなたの人格を見ている訳ではないという事はご理解ください。仮にそのオーディションに受からなくても、ご自分の人格を否定しないでください。誰もあなた自身を否定できる権利はありません。
最終的には「縁」だと思いますよ、僕ぁ…

【3】 オーディションが終わったら

さてオーディションが終わったら演出家、プロデューサー、ミュージカルの場合は音楽監督、振付家と共に香盤を決定していきます。
 その際に気をつけなければいけないのは、複数の役を演じなければいけない俳優がいたら、着替え等の時間が確保できるかを検討してもらう、です。
演出家は時に、ついさっきまで別の役をやっていた俳優を数秒後には別の役として登場させようとします。
そんなバカな! …すいません、僕もこれ飽きてきました。

スタッフの意向を聞きつつ、俳優が過度に負担にならないように配役がなされるかを注視しましょう。客観的な判断が求められます。
最近ではあまりないのですが、この際プロデューサーからのゴリ押しがある場合もあります。理由は…まあダークな部分なのでやめておきましょう。

様々な要素・思惑が交錯しますが、どこに着地点を見つけるか、これからどこに不安要素が起こりうるかを予想しておきましょう。
大切なのは準備することです。あらゆるケースを想定しておきましょう。
想定外」なんてのはプロは間違っても使ってはいけない言葉です。
さて、そろそろスタッフワークが始まりますよ…

【4】 各スタッフと打ち合わせるよ

稽古場に入る前に、必要なスタッフとの打ち合わせが始まります。誰との打ち合わせが始まりとは決まっていないので、まずは装置家(美術家)との打ち合わせからお話ししましょう。
 装置打ち合わせの最初の最初は、演出家とプロデューサーと美術家との三人で軽く下打ち合わせが行われる場合もあります。いつもの組み合わせもあれば、初めましての組み合わせもあります。自分自身が、その装置家とはじめましての場合もあります。ここでもやっぱり準備が必要になりますね。
ここで舞台監督と合流する場合が多いですね。舞台監督は演出助手にとって最も関わり合いが深いスタッフだと、私は思います。