前編では、劇場改修や建て替えの概要についてお話ししました。今回は、それらを誰が、どのように、何のために行うのか、より深く掘り下げて解説したいと思います。
劇場改修・建て替えは、基本的には劇場付き(小屋付き)が中心となって進めるのが比較的に一般的です。彼らは日々の公演を通して劇場の隅々まで熟知しており、どのような劇場にすべきかを検討する上で極めて重要な役割を担います。
そんな劇場付きの運営形態は、大きく分けて二つあります。
◾️劇場が直接雇用する専門職の職員
◾️劇場が外部業者に委託をする指定管理者
(それぞれの詳細な説明はここでは割愛させていただきます)
それぞれの場合の長所と短所を比較検討してみましょう。
専門職員
長所:
- 劇場の特性への深い理解と高い専門性: 長年にわたり劇場に勤務し、数多くの公演に携わることで、多様な状況に対応できる豊富な経験と専門知識を有しています。
- 愛着と帰属意識: 運営に深く関与することで、劇場への愛着と責任感が強く、長期的な視点に立った運営が期待できます。
短所:
- 固定観念に囚われがち: 主に上演される公演内容(オペラ、古典芸能など)によっては、過去の事例に固執し、革新的なアイデアの導入に抵抗を示す場合があります。
- 固定人件費の負担: 人員配置が固定されているため、状況の変化に応じた柔軟な人員配置が難しいという側面があります。
指定管理者
長所:
- 民間のノウハウと資金力、多様なサービスの提供: 委託会社の事業内容によりますが、民間の経営手法やノウハウを効果的に活用し、効率的な運営や付加価値の高いサービスの提供が期待できます。
- 効率的な運営と収益性の向上: 必要に応じて人員を増減するなど、状況に合わせた機動的な対応が可能です。
短所:
- 劇場の特性への理解不足: 指定期間が限られているため、職員に比べて劇場の特性や歴史への理解が表面的になりがちです。また、担当者の頻繁な交代も課題として挙げられます。
- 短期的な利益優先の傾向: 長期的な視点よりも短期的な収益性を重視する傾向があり、結果として芸術性の低下や利用者への対応が画一的になる可能性があります。
どちらの場合でも劇場の維持管理を行いますが・・・
専門職員は、民間劇場、商業劇場や芸術系の公共ホールに多く見られ、仕事の比重も維持管理より公演業務に重きが置かれている場合が多い。(公演>維持管理)
指定管理者は、一般的な公共ホールに多く見られ、業務内容的に公演業務よりも、劇場管理の方に重きが置かれている印象です。(公演<維持管理)
劇場付きの仕事は、一般的な音響、照明などの技術的な知識も必要ですが、維持管理という観点から、作品創造とは異なる視点が求められます。この異なる視点と豊富な経験こそが、改修や建て替えにおいて非常に重要になります。そのため、指定管理者よりも劇場職員の方が、より適切な改修を行い、質の高い公演に繋げられる可能性が高いと言えるでしょう。
特に公共ホールでは、改修期間中に予定されていた「成人式」や「地域の学校行事」などが開催できなくなる事態も考慮しなければなりません。劇場の改修・建て替えは、単なる建物の改修に留まらず、地域文化の継承や活性化に深く関わる重要な課題なのです。劇場付きが職員か指定管理者かによって、改修への考え方や取り組み方も大きく異なってきます。
今後の劇場やホールの展望としては、地域社会の中でどのような役割を担い、どのように活用されていくのかが重要になります。劇場を核とした地域コミュニティの活性化が求められており、より長く、持続的に活用できる劇場やホールが求められていると言えるでしょう。しかしながら、現状はまだ試行錯誤の段階と言わざるを得ません。
舞台芸術を愛する皆様、これから舞台スタッフを目指す皆様、舞台関係者の皆様、次回劇場で作品をご覧になる際は、このような視点からも劇場という空間を捉えてみてはいかがでしょうか。
劇場という空間が持つ多面的な役割を理解することで、舞台芸術をより深く堪能できるはずです。